活躍する同窓生  しだれ桑 第53号より

「絵を描く人生」研究と教育を生きる


画家・東京造形大学教授 母袋 俊也さん(S47年卒)

現在、美術家・教育者としてご活躍されていますが、この道に進まれたきっかけは何でしょうか?

高校2年の時、神奈川県立近代美術館で『ムンク展』を見たことがきっかけ。日本で初めての本格的なムンク展でした。10代の僕にはムンクの内的叫びがあふれた出したあの色彩と形態が真っ直ぐに届いたのでした。その日が絵を描いていく人生を歩むことを決意したその日だったのです。

美術家として、今はどのようなテーマで制作されていますか?

メインテーマは「絵画における精神性とフォーマート」。フォーマートとは画面の縦横比。つまり縦長、横長、正方形のフォーマートと作品のメッセージとの相関に対する研究と実践。

教育者として、いま感じていることと、何を伝えたいと思っていますか?

そもそも絵画は個人の感覚や感性の世界です。数字を基盤とする自然科学とは異なり、美術は主観の世界であり、そのあり様は多様性が担保されている。それが魅力でもあるのです。ただ大学ですから、好き勝手に自分の妄想の中を生きればいいわけではない。「自分と社会の中間に絵画が存在し、より素晴らしい社会実現に向けての制作が必要なのだ。」と学生には伝えています。

21世紀、今僕らの前に示されている世界は確かに多様ではあるが、他を寛容に認めるのではなく、自分の足元しか見ず、臆面もなく自分ファーストと声高に叫ぶことを歓迎する傾向がみられます。それは20世紀が掲げた理念、理想が現実を前に溶解していく姿にも思えます。人類はその理想をやすやすと手放してはいけないのだと強く思います。画家はそうした〝生〟を示すことができ、連綿と続く絵画史はそれを雄弁に物語っています。美術にはそうした力があること、そしてその責務があることを伝えたい。

ご自身の高校時代の思い出をお願いします。

高校時代はベトナム戦争、大学紛争で大揺れの時代でした。社会も大人も自信を見失っていたのだと思います。僕は勉強をほったらかしにして、友人と正義に向けて議論をし、制服の自由化などの運動をしました。そんな中、担任の倉石忠彦先生は、ある時は僕らをいなし、ある時は僕らを認めてくださる度量と学知を持っていた方で、反抗しながらも尊敬していた方でした。民俗学の研究者でもあった先生は僕が大学時代に母校の国学院大に戻られ、今は退職、名誉教授として研究を続けていらっしゃいますが、ずっと連絡させていただいています。僕が大学という場に身を置いているのも、先生の存在と決して無縁ではなかったと思います。

1978年東京造形大学卒業、1983~87年 フランクフルト美術大学。「絵画におけるフォーマートと精神」をメインテーマに制作、理論研究を展開。主な個展・特集展示:2006年埼玉県立近代美術館、2007年辰野美術館、2012年青梅市立美術館、2014年市立小諸高原美術館、2017年奈義町現代美術館など。書籍近刊:『母袋俊也 絵画 母袋俊也作品集Vol.2』刊行を記念して5~7月にかけて2つの個展を開催。※書籍はアマゾン、サントミューゼ上田アートショップでも購入可。

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